高校を卒業し、私は「予定通り」とばかりに、何の感慨もなく浪人生となった。いよいよ自分を「勉強だけ」の環境に追いやった。
予備校が始まる前の3月から1日中机に向かっていたけど、勉強は1ミリも進んじゃいなかった。
机に向かって参考書を広げても、数分後には全然別のことを考えている。
数十分だか経過して、ハッとして「いけないいけない…」と改めて参考書に目をやるも、1秒後にはまた気が散って、ボーッとして、嫌になって、近くにある漫画本や小説、雑誌を読みふけって……大体その繰り返しで何時間も過ごすのだ。
いざ机に向かうと、勉強から逃げたくて仕方ない。
単語カード何枚かめくっただけでうんざりする。
そういう時は大学のパンフレットや合格体験記などを読んで何とか自分に刺激を与えるのだが、効果はほんの一時だった。
勉強しようとすると、激しい抵抗を感じた。
「違う!!今やるべきなのはこれじゃない!!」というような。
怠けたいとか、そういうのもまったくなかったとは言えないけど、それだけじゃ説明しきれないような、強い抵抗感…。
無理やり机に向かおうとしても、自分の中の”何か”が力づくで抵抗するのを感じた。
ペンを持とうとする手を何かが拒む。
単語を覚えるとか、文法を理解するとか、そういうことが嫌で嫌で仕方がなかった。
勉強しようとすると、何かが自分の足を引っ張るような、「ちょっと待って!!」と強くさえぎるような、そんな感覚。。
勉強しようとすると、モヤッとする。
出どころが分からない、強く引っかってくるモヤモヤ。
勉強しようとすると急に「勉強以外のこと」が気になりだす。
大体が、「勉強」のために切り捨てた物事のことだった。
もう色々とオカシくなっていた。
「勉強以外全部ムダ!」とばかりに、勉強以外のことを徹底して切り捨てようとするのだから。
予備校すら通学時間がもったいないという理由で行かなかった。(夕方の単科コースのみ取った)
まず外に出かけるための身支度の時間がもったいない。
自分に必要じゃない授業も多い。
「予備校に行って帰ってくる」というだけで、結構な時間のロスがあるように思えた。
家にいればその間ずーっと途切れることなく「自分の勉強」ができるのだ。その積もり積もる差はかなり大きいと思った。
とにかく勉強以外のことに時間を取られることを恐れた。
ちょっとしたことでも、「勉強する時間が減る!!」と思うとイライラした。
どこへも行かず、社会と断絶して、1日中家にこもって勉強だけしていればいい環境を作って、ちょっとここには書けないくらいの…もはや人間とは言えないような生活をしていた。
私は「大学受験」というものに、「結果」ももちろんだけど、勉強の「過程」にも、理想、完璧を求めた。
私の思う「完璧」とは、自分を機械のように勉強させること。
勉強以外のことを徹底して切り捨てる
寝食以外のすべての時間とエネルギーを受験勉強にあてる
人が12時間やるなら自分は15時間はやる
人が3ヶ月かけてやるところを自分は1ヶ月で終わらせる(残りの2ヶ月でライバルたちに差をつける)
脇目もふらずやる
とにかく「これ以上ない」というくらい、やる…!
そういうことを、念を押すように唱えた。
気持ちばかりで一向に実現しないことが、もどかしくて仕方ない。忘れてしまうことが怖くて、何度も確認するよう、心に押し込むように唱えたり書いたりした。
これ以上ないくらいやりたい
とことんやりたい
死ぬ気でやる
「打ち込む」とか「没頭する」とか、「とことん」とか「これ以上ない」とか、そういう表現にしびれた。
大学受験は一生に一度あるかないかの大チャンス、
ここで悔いを残すようなことは絶対にしたくない、
人生でたった1度くらい「死ぬ気」で頑張る時期があってもいいじゃない、
そういう過程を経ての合格じゃないと意味がない!…と。
私にとって「受験勉強」は、俗世間への未練を捨てて、尼寺へ入るようなものだった。一旦受験勉強の世界に入ったら、今、心にあるものからすべて引き離されて、「受験勉強一色」の世界になる、それが怖かった。
勉強は決して嫌いじゃないはずなのに。
机に向かってコツコツする作業は自分に向いている、合っている、そう思ってきた。
中学までの勉強がノリにノッていた時の気持ち良さが、まだ頭の中に感覚として残っている。あれをやりたい、あの感覚をまた味わいたい、と。
死ぬ気でやった、これ以上ないというくらいやったという経験が欲しかった。
その一方で、1日中勉強だけをする生活を思うと、ゾッとする。
「そんなの、自分が本当にやりたいことと違う…」?
…やりたいとか、やりたくないとか、そういうこととも違う…。
(↑当時の心の葛藤)
何に恐怖心を感じていたか。何がこんなに嫌なのか。
これだけ受験に対する熱意、意欲はあるのに、なぜ??って。
自分で自分の心が分からなかった。
「勉強しなきゃ」というのが常に心に重石のようにある一方で、心は受験の世界とは全然別のところにあった。
そもそも現役の時からずっとこうだったのだ。それが浪人したからといって急に変るわけがないのに。むしろ浪人して余計にひどくなった感がある。
それでも何でも、受験を完璧な形で終わらせない限り、「自分の人生」はスタートしないのだ。
まずは受験。何を差し置いても受験。
受験で「完璧な結果」を残さない限り、他のことは何もできないのだ。
このままでは永遠に他のことができなさそう…、そんな恐ろしい予感は必死で打ち消した。
毎日毎日、「勉強なんてとてもする気になれない」日々が続く。
それでもその現実から目をそらし、毎日アホみたいに、明日こそは、明日はやれると念仏のように唱える。
自分が「勉強が嫌で嫌で仕方ない」という現実を認めるわけにはいかなかった。
どんなに勉強から逃げたくて、現実として全然進んでなくても、「受験を諦める」あるいは「大学のランクを落とす」ということは絶対にできなかった。
大学に行かない人生なんて考えただけで恐ろしい。暗黒、絶望しかない、生きる意味がない、そう思っていた。
逆に大学受験で栄えある結果を残せれば、もうその後の人生どうなったっていいって思えるくらい、揺るぎない自信を手に入れられると思っていた。