高校生活 その1

受験に失敗して、滑り止めで受けた高校に通う日々が始まった。
「優等生」という、それまで自分の支えになっていたアイデンティティを失った私は、かなり精神的に不安定になっていた。

でも気持ちは早急に切り替えたつもりだった。
高校なんてしょせん通過点、大学受験で一発逆転を狙えればいいのだと。
そう思わないと生きていけないような気がしていた。
「行きたかった高校に落ちた」というショックをやわらげてくれるのは、「まだ逆転のチャンスはある」という、未来への希望だけだった。

私が行くことになった私立高校(女子高)は中学も併設されていて、私のクラスは内部進学者と外部中学からの進学者がちょうど半々ずつ、という構成だった。
そして外部進学組の多くは、私と同じように第一希望の高校に落ちて、そこに来ている人たちだった(地方や田舎の進学校はほとんどが公立で、私立は一部を除き「公立に落ちた人たちの受け皿、すべり止め校」という位置づけだった)。

この頃の私は、自分が通うことになった高校をバカにし、「自分は本来こんなところに来るはずじゃなかった人間なんだから」と思うことで、何とか自尊心を保とうとしていた。
授業も、「こんな学校の授業なんて…」とナメてかかり、寝たり漫画を読んだりするようになった。
その一方で進学校に行った子たちはきっとハイレベルで密度の濃い授業を受けているんだろうと思うと焦り、放課後は自宅勉強用の参考書を漁りに大手書店に通いつめたりした。

高校からは、中学までの「家から徒歩10分」の通学環境から一変、電車と地下鉄に揺られて1時間半かけて通学する生活になった。
しかも私は朝お風呂に入っていたため、毎朝5時には起きなければならなかった。
体力がなかったのか、朝早く起きてバス(家からJRの駅まで)、電車、地下鉄に揺られる生活が体力的にしんどく、学校に行って帰ってくるだけでヘトヘトになる毎日が続いた(結局高校3年間慣れることはなかった。あれから10年経った大人の今でも、乗り物は非常に疲れる…)。
家に帰り夜ご飯を食べ終わるといつの間にか寝てしまっていて、気づいたら朝…という日も多かった。

私は高校の3年間、使える限りの時間をすべて受験勉強に当てよう、1年生から受験を意識しよう、と意気込んでいた。
でもその意気込みは、変な方向に注がれていった。「学校がある日でも家に帰ってから6時間は勉強する」とか「評判の良い参考書を揃える」とか。単に睡眠時間を削っただけで何かを達成したような気にすらなっていた。
中学よりも通学に時間を取られるようになったことで、家で勉強できる時間が少ないと感じ、焦っていた。
朝お風呂に入ることにしたのも「夜に勉強がちょうど乗ってきた頃にそれが風呂で中断されたらもったいない」という理由だった。実際は…勉強などとてもする気になれなくて、いつまでもダラダラしてしまい、そうなると何もする気になれなかったり、寝てしまったりで、…本当にだらしない生活だった。

この頃から、風呂にやたら時間がかかるようになっていた。ものすごく急いだつもりでも、どうしても40分を切ることができない。ゆったり時間を気にせず入ったら1時間、ちょっと丁寧に洗おうと思えば1時間半くらい余裕で過ぎていた。
7時過ぎの電車に乗るためには6時45分には家を出る必要があったが、5時に起きてもギリギリで、毎朝とにかくドタバタと余裕がなかった。
朝の身支度も含め、強迫性障害の強迫行為と思われる行為に時間がかかることが多くなり、それがまた「勉強する時間が削られる」という焦りにつながっていった。

自分の「受験」とか「勉強」に対する思い入れが、どんどん極端で、歪んだものになっていった。
部活にはもちろん入らなかったし、中学まで続けていた習い事もいっさいやめ、放課後友達につかまらないように一目散に教室を出るようなこともあった。
とにかく「勉強以外のこと」を、徹底して切り捨てるかのようだった。
肝心の、「勉強がどれだけ進んだか」「身になったか」より、「時間を確保すること」だけが目的のようになっていた。

そうまでして時間を確保し、家ではさぞかし勉強に励んでいたのかといえば、そうではなかった。
時間を作り、揃えるものを揃え、「環境」だけは万全の状態にして、「さぁあとはやるだけ」のところまできたら、それだけで満足した気分になって、机の前ではボーっとしたり、受験情報誌を眺めたりすることが続いた。