母の強迫性障害

小さい頃からずっとずーっと、不可解な決まり事、規制だらけの日常だった。
あれをしてはいけない、これをしてはいけない、ここ触っちゃダメ、あそこ踏んじゃダメ(なんか分からんけど、床の一部に「踏んじゃダメ」という箇所がいくつかあったのだ)、家の中はそんな規制の嵐。

でも小さいうちは、それが普通で、どこの家庭でも子供というのはそういうことで親から怒られるものだと思っていた。

しかし、いくつになっても、大人になっても、状況はまったく変わらずで、タンスや引き出し、家の中の物全部、勝手に触ると雷が落ちた。
本当に人が変わったように怒り出す。「なぜ(開けるなという)言いつけを守らなかったのか」「なぜ開ける必要があったのか」などとワケの分からない怒りの詰問に始まり、1時間近い説教が続く。
風呂あがり、タンスからタオル1枚取り出す自由もない。自分の下着も好きに出せない。大げさじゃなく「指一本触れさせない」という勢い。
台所から勝手に調味料などを取ってくることもできず、欲しければ「何でもまずはお母さんに言いなさい」と言われていた(ちなみにこれは父に対してもそうだ)。

子供の頃は、たま~に母親が一人で出かけてお留守番する機会があった時、こっそり家の中の引き出しを開けるのが密かな楽しみだった。
引き出しの中は、なんというかまぁ…一種独特だった。物を仕舞ってあるというより、とてもきれいに並べられている、という感じ。物と物がきっちり平行に、少しでも置き方が曲がっていたら許せない!という感じで。でも実はその心境?をわかりまくってしまう自分もいるのだけど…(今は、の話ね)。

整理整頓強迫、左右対称強迫、そういう言葉を知った時、急速に理解できた。あーまさにそれだったなと思った(自分自身のことも含めて)。

私が小さい頃、母は冷蔵庫を閉じる時、必ずと言っていいほど全身を使って冷蔵庫のドアを何度も何度も押していた。全体重をかけて、ドアに体当りするような感じで。

今なら分かるその心理。
分かりすぎるぐらい分かる。
「ちゃんと閉じているか不安」なのだ。

子供の頃は、いつも何気なく見ていただけで、特にその行動に疑問を持つこともなかった。
それが「普通」というか、やはり「冷蔵庫を閉める時というのはそうするものなのだ」と思っていた。
小さい子にとって、親がしていることが世界の常識で、普通なのだ。
冷蔵庫とおしくらまんじゅうしてるみたい、と思うことはあったけど。

他にも母は、室内や身の回りのものが「水で濡れる」というのが不快なようだった。
雨の日は玄関でバスタオルで全身をきっちり拭ききらなければ家の中に入れなかったし、少しでも濡れた足で廊下を歩くと雷が落ちた。

高校生の時、傘を忘れて、どしゃぶりの雨の中、駅から自転車をこいで帰ってきたことがあった。
夏の日のスコールのような雨だったけど、疲れていて早く家に帰りたかったから、止むのを待たずに駅を出た。
家に着いた時は全身はずぶ濡れ状態だった。
服はべっとり体に張り付いて気持ち悪い。とにかく早く着替えたかった。

玄関を開け、母は私の姿を捉えるなり猛突進してきた。
まぁ褒められた行動ではなかったかもしれない。
でもずぶ濡れになったくらいで、何であんなに怒り狂われなければならないのかと思った。
寒いし早く体を拭いて家の中に入りたかったけど、結局玄関で相当長い足止めを食った。1時間近くだったかな、突っ立ったまま母親の怒りを浴び続けた。

とにかく、濡れること、液体系の汚れ(?)が生理的にダメなようだった。
自分やその場が濡れる、びしょびしょになるということにストレスを感じるようだ。

母は、事あるごとに手を洗う、トレイの後に石けんがないと耐えられない清潔好きではある一方で、風呂には2週間に一度という頻度しか入らない人なのだ。よくそれで平気だなと思うけど、正直見た目は、1週間以上入っていなくても、あまり汚れているようには見えない。
もしかしたら食生活が関係しているのかもしれない。
母は肉という肉を一切食べないのだ。豚も牛も鳥も全部。
宗教とか動物愛護など何か信条があってではない(魚は食べるし)。とにかく「肉」というものを気持ち悪く感じるらしい。
だからなのか、フケとか体の汚れが全然脂っぽくない。私だったらそんなに入らなかったら髪も全身も大変なことになる。それかあまりの風呂嫌いが、体をそう進化させたか?

強迫で、不潔恐怖であるにもかかわらず風呂に入らないというのは、矛盾しているようだが、結構聞いたことがある話だ。
入らないというより、入れないんだろう。気持ちはわかる。
私自身も、埃への嫌悪感がすごいのに、1年くらい部屋の掃除をしなかった時期がある。

母が風呂嫌いな理由はいろいろあるけど、まず、風呂場であっても「水浸し」になるのが嫌だったのだと思う。
風呂に入った後に、風呂場全体の水気を拭ききる、それを自分の気の済むまでやらなければいけないのが、相当しんどいようだ。
強迫の人にとってこの「気の済むまで」というのは気の遠くなる作業だ(というか「気の済む時」がこなくてのたうち苦しむ)。なにせたまにしか入らないから1度の風呂に時間がかかるし、風呂と風呂掃除で5時間くらいかかってたからね。そりゃ入るのもおっくうになるだろう。

我が家は私が小学校1年生の時に新築の家を建て引っ越しをしている。
強迫性障害はこのように、新しい物、大事にしたいものが手に入ると、悪化する人が多いのではないかと思う。
「新築のピカピカの家」なんか手に入ったら・・・それはまぁ大変だっただろうことは想像がつく。
逆にその家に潰されてしまうくらい、「きれいに保つこと」に神経をすり減らす。

私自身も新しい家に引っ越し、「自分の部屋」を与えられたことをきっかけに、強迫性障害らしい行動が悪化した。