不潔恐怖の歴史 その2

小さい頃から「汚れ」に対して神経質ではあった。
手が汚れる遊び(砂場とか)が嫌いとか、手を洗いにいけない状況がストレスとか、もう幼稚園くらいからそうだった。
私は3歳から幼稚園に通っていたけど、当時印象に残っていたのが、3歳位だと鼻水を垂らしっぱなしで歩いている子が多かったこと。あれが私には信じられなかったというか、気持ち悪くないんだろうか…と思ったりした。
まぁ色々あったりはしたが、それでも中学生くらいまでは、「これ以上気にするようになったらしんどくなるぞ!」というブレーキが働いて、一定以上は気にしないでいられたと思う。

それが、本格的に、色々なバランスが崩れだしたのは、浪人して一日中部屋にこもるようになってからだと思う。

中学までの私は、むしろズボラでだらしないくらいだった。今じゃ信じられないけど、床とかに物を置いても(落としても)全然ヘーキだった。自分の部屋など足の踏み場もないまで散らかすこともあった。
この頃の強迫的症状は埃などより、参考書や教科書にシワや折れ目ができるのが耐えられなかったり、机の上などに置いた物がまっすぐになっていないと、ちょっとでもズレていると直さずにいられない(机の端のラインに対してきっちり並行に)とか、そういうものだった。

部屋の掃除は母親任せだった。というか自分の部屋はまったく使っていなかった。
家ではほぼすべての時間を居間で過ごしていた。寝るのも居間。
小1の時に新築の戸建に引っ越し、そこで子供部屋というか、自分一人の部屋を与えられた。
まぁそうなったら、「ベッドで一人で寝る」というのに憧れるよね。
でも予想していたとおりというか、即却下(笑)。私が暗い中で一人で寝ることなんて無理に決まってる!!とか何とか言われ、何度かすったもんだの大喧嘩を繰り返した。私も寂しいのは多少図星だったこともあり、結局ずっと両親と川の字か、居間で寝るという習慣が根付いてしまった。

勉強するのも居間のテーブル。毎日大量の参考書を広げ、夜ご飯の時間になるとダーッとおろし、食事が終わったらまた元に戻す。居間の片隅には大量の参考書や本類が山積みになっていた。来客時には慌ててどこかに押し込んだりしていた。

自室は唯一、一人になれる自分の城だったけど、神経を使う場所でもあった。
こまめに掃除してきれいを保った状態だと、くつろげなくなる。汚さないようにと気を使って行動を制限してしまう。
昔から、「新品の物」を手に入れると疲れる。。汚したくない。乱したくない。
せっかく手に入ったものなのに、汚れるのが嫌で使わない。
「きれいに保つ」ことが喜びだった。

そのうち部屋の存在自体どうでもよくなってしまった。
そうなるともう、色んなことが急降下(笑)。
極端すぎるのだ。物は散乱。足の踏み場もない。ネットで「汚部屋」と検索すると色々出てくるけど、まさにあんな状態になってしまった。
見かねた母親が月に1回くらい掃除に入っていた。

でも高校に入ったあたりから母親とのバトルが激化し、一人になれる空間がないと精神がやられそうだったので、ふたたび自室を使うようになった。

母親に「部屋に入るな」と言い掃除も自分でするようになったけど、週に1度程度、掃除機をガーッとかけるだけ。埃なんて目に見えないからあまり気にならなかった。正確に言うと、気になりそうになるのを、何とか抑えていた。気にしてしまうと大変なことになるという思いから…。

そのギリギリ保っていた?バランスが崩れてしまったのは、高校を卒業して、自宅浪人として、部屋に常にいるようになったからだと思う。
今まで気にしないでいられたことが、急に気になるようになった。

この頃からキ○ガイみたいに「勉強時間が減る」ことを恐れ、勉強以外のことを徹底して生活から排除するようになり(勉強なんてほとんどしてなかったけど)、掃除をサボり続けていたら、掃除ができなくなっていた。

気がつくと「聖域」を作っていた。
部屋のほんの一角だけ…いや部屋じゃないな、机の一角。山積みの参考書を3列くらいどんと置き、机として使えるスペースが2分の1くらいになった勉強机のその部分だけを、一心不乱に拭くようになった。そこだけを、ウェットティッシュで親の敵みたいに拭き続ける。それ以外の場所(とゆーか部屋全体)は一切掃除しない。

当然、部屋はひっどいことになっていった。
床に敷いていた毛の長いカーペットの中には、恐ろしいほどのダニが生息していたと思う。
黒かったはずの部屋のピアノの蓋は、埃で真っ白になっていた。
夏になると毎年ひどい結膜炎と鼻炎の症状に悩まされた。ダニによるアレルギー症状だったと思う。

それだけ汚い部屋なのに、部屋に入る前には、”自分自身の身の汚れ”が気になるのだ。
いや…実際汚かったのだ。その頃の私は週に1回しか風呂に入っていなかったから…。
入浴に時間がかかりすぎて、風呂がものすごくおっくうになっていた。
「汚い」と感じてしまうことにヘトヘトだったが、「おかしい」と言うこともできない。実際に汚いのだから。
1週間も洗っていない髪の毛を汚したくない場所に落としてしまったら、気が狂いそうになる。

部屋に入る前には、風呂場で髪を入念に梳かし、ヘアバンドをして、後ろの髪はお団子にしてまとめ、がっちりガードする。その後着ていた服を脱いで、窓からバサバサとやって埃を払ったつもりになり(実際はあんなことで埃が取れていたのかは分からない)、手を腕まで洗っていた。それをしてからでないと、聖域である机の前に座れなかった。
真冬、氷点下10℃まで下がる日でも下着姿で窓の下から手を出して、ガチガチに震えながら服の埃を払う。それをしなきゃ部屋に入れなかった。

部屋の中ではなるべく埃を立てないように、抜き足差し足で歩く(実際は立ちまくっていただろうけど)。
「汚れ」に触れてしまわないよう、汚れの中を縫うようにして歩く。埃が積もった部屋の物、家具など、触れてはいけない場所に体が触れてしまわないように。少しでもそれらに体が触れてしまったらゲームオーバー。もう一度服を払い、手と腕を洗い直さなければならない。それから聖域部分の拭き掃除を始めた。

無事最後までできるか、邪魔が入らないか、毎回ハラハラ・ドキドキ、ヒヤヒヤしながらこの一連の行為をやっていた。