高校生活 その8

私には以前から「あの人と友だちになりたい」と思う、気になる子(以下M)がいた。

私は入学当初からしばらくはMに避けられていた。
後から聞いた話によると、Mの私に対する第一印象はかなり良くないものだったらしい(笑)。
確かにそうだった。Mに声をかけても妙にそっけないか対応か、たまに露骨に嫌な顔をされることもあり、ずっと、とりつくしまなしと諦めていたのだ。
でも徐々に話をするようになり、体育のハードル走で二人そろって再テストになり一緒に練習したのがきっかけで、一気に打ち解けた。
高1の、冬休みのちょっと前くらいだったと思う。

Mは明るく、気取ったところがなく、裏表もない。
好き嫌いがはっきりしていて、誰にでもはっきりモノを言った。
そしてとにかく話し上手で、よくしゃべってくれた。
私はそれまで、人といても何をしゃべっていいのか分からない、沈黙が怖いという悩みがあったが、Mは特に無理をしている風でもなく、途切れることなく常に何かしゃべっている(笑)。それが聞いていて楽しい。
私が言う何気ない一言にも、Mは本気で面白がってくれた。
だんだんと、Mに対しては、こういうこと言ったら変に思われるかな、こんなこと言って引かれたらどうしよう…と心配することがなくなっていた。

お互いに市外から電車通学していて、しかも同じ沿線で、毎日一緒に帰るようになった。
長電話をしたり、あちこち一緒に遊びに出かけたりもするようにもなった。

やっと「本当の友達」に出会えた気がした。
いつの間にか高校生活を「楽しい」と感じるようになっていた自分に驚いた。
ついこの間まで立てていた中退計画もどこへやら。結局私は何事もなかったかのようにあっさり2年に進級した。
(あの時高校を中退していたらその後は悲惨なことになっていたと思うから、その点でMにはとても感謝している)

Mとはしばらくはただ楽しいばかりだった。
でもだんだんと…、少しずつ、お互いに腹の中でいがみ合う関係になってしまった。

念願叶ってMとかなり打ち解けても、私にはどこか「一緒にいてもらっている」という感覚があった。
Mは本当に私でいいんだろうか、私と一緒にいて楽しいと思ってくれているんだろうか、時々不安になることがあった。
Mは私がいなくても他にいくらでも友達は作れる。でも私はMに嫌われてしまったら他に行くところがない。教室で独りぼっちになる。
Mに嫌われたくなくて、Mとの関係が壊れるのを恐れた。

自分の意見は極力言わず、何でも相手に合わせ、相手を持ち上げていれば、相手は気を良くしてくれる、そうすることが人と上手くいく秘訣なのだと本気で思い込んでいた。

意見が食い違うことを怖れた。自分の意見を言う=相手に嫌われる、だと本気で思っていた。
「私はこうしたい」と言うことは滅多になかった。
常に受け身。受け身の方が楽だった。
何でも相手に決めてもらって、それに従う方が自分でも楽だった。
何がいいか聞かれてもつい「何でもいいよ」と言ってしまう。
でも本当に何でもよかったのだ。まれに「これがしたい」というのがあっても、それを言うことはできなかったし、簡単にあきらめもついた。相手が選んだものの方が確実で安心に思えた。
性格や趣味嗜好は正反対と言えるほど違った二人だけど、根本的な「気」のようなものはとても合っていたから、Mの選んだものに不満を感じることもあまりなかったのだけど…。

Mはイエス・ノーがはっきりしていて、決断が早く、行動力もあった。
常にキビキビ動いて、場を仕切るのもうまかった。
言いたいこと、言うべきことは、相手が誰であろうとはっきり言った。
私はそんなMを軽く崇めてすらいた。

でも2年に進級し、お互いに完全に緊張がとけたあたりから、少しずつ、不協和音が生じていったと思う。
だんだん、Mの私に向ける言葉に、カチンとくるものが多くなってきた。

言葉がキツい。嫌味が多い。何かと「バカにしてるのかな」「ナメられてる?」と感じることが多くなってきた。

以前はあんなに気を使って、腫れ物にさわるようにして接していたのが、いつの間にか、家に帰ってからや電話を切ったあと、ムカムカがおさまらない関係になっていた。

Mも私にイライラしていたと思う。
私の、いい加減、無責任、はっきりしない、優柔不断、何でも人に頼る、甘える、鈍くさい、口だけ、陰湿、八方美人、でも自分のことを善人だと錯覚しているところに。あと世間知らず的な勘違い発言とか(しかも自信満々で。。)
今なら分かる。Mもイライラを抑えるのが大変だったんだろうと思う。

いちいち私のやることなす事、否定や見下しの連続。
私の何気ない言動に、思ってもいないような矢が飛んでくる。

バカじゃないの(笑)
まだできないの?
そんなことも知らないの?
そんなわけないでしょ
はぁ?
私ってはっきり言っちゃうタイプなんだよね~

今思えば、私は人をイラつかせる要素十分だった。
でも原因があれば、何を言われても仕方ないのか?
人からあれだけ言われて平気でいられる人は、いないと思う。。

自分では、自分の何がいけなくて言われるのか分からず、防ぎようがない。
些細な態度や言葉尻にも敏感に反応し、心の中は七転八倒状態(笑)。
Mを怒らせないよう、言葉や行動を必死に選ぶことにバカらしさを感じたが、そうすることしかできなかった。

腹は立つけど、でも楽しいこともいっぱいあったし、何より一緒にいてこれほど気を許せる相手はいないというのはお互いにあった思いだと思う。
だからこそ、途中何度も「もうダメかも…」という危機を迎えても、Mの大学進学により離れるまで付き合いは続いた。

高校卒業後、私は浪人して予備校通いを始めた。
Mもまた浪人した。
2年一緒に予備校にいたのち、Mは埼玉の大学に進学した。
それからもしばらくは電話で連絡を取り合っていたが、私の方は、強迫性障害で生活がめちゃくちゃになってきた頃だった。
先の見えない引きこもり生活に突入し、人に今の自分を何と言えばよいのか分からない。
今どうしているのかと聞かれることが辛く、いつも適当なごまかしで繕った。

Mが大学に行った年の夏頃から、Mからの連絡(当時は電話のみ)に一切出なくなった。
それでも何年間かは、年に1度、私の誕生日あたりに電話が来たが、無視し続けた。いつしか連絡はこなくなった。