母の心の中はいつも、何かしらの心配や不安、誰かに対する不満があった。
心配、不安の対象は主に、自分と家族の健康、失うこと、損すること、世間体や自分の面子など。
心配事があるとイライラ、ピリピリし、そうなると父も私もつきっきりで母をなだめ、母の不安を取り除くよう動かなければならなかった。
私だけではなく、父もまた相当干渉され、細かい行動に口を出されていた。
人のことを勝手に決めつけるのだ。アンタ(私)は今疲れている、怒っている、嫉妬しているなど。勝手に思っているだけならまだいいが、疲れているのだからこうしなさい、それはしてはダメだと細かく行動を制限してくる。
例えば、暑いから自分の部屋の暖房を切ろうとする。でも母の感覚が「私はきっと寒い」だと、暖房を切らせてくれない。
母の居る場所の暖房を切ろうとしたのではなく、自分だけがいる自分の部屋の暖房を切ろうとして、である。
本当に暑くても「いーから。寒いんだから。付けておきなさい」と。そうなるともう何を言っても聞く耳持たない。
逆に母が「暑い」と感じている時には、こっちは寒くても「寒い」とは言い出せない。何度も書くが、お互い別々の部屋にいての話である。
疲れていないのに「疲れている」と決め付けられると、「疲れている人」として動かなきゃけなくなる(寝ていなきゃいけない、なるべくじっとしていることを強要され、動けないなど)。
父の姉夫婦が家に遊びに来た時だった。
父は仕事で疲れていたが、帰りは車で数時間かかる場所まで姉夫婦を送っていった。
「疲れてる」ことを心配する割に、帰るなり休ませもせず1時間でも2時間でもガミガミと父を責めまくる。なぜ断れなかったのかと。
疲れていたって父親にだって付き合いってもんがあるだろう。母は人のそういうことをまるで無視する。自分だって絶対他人の頼みは断れない人なのに。
母の文句を聞いていると、聞いているこっちの気が滅入ってくる。
母の「父の体がとにかく心配」という心情を理解しようと頑張ったが、私はだんだん本当に父の体が心配になってきた。それだけ言ったらもう十分でしょと。
「ほどほど」のところで自分の感情をしまえない母にムカムカしてたまらなくなった。
肝心の父は、缶ビール片手にウンウンと頷きながらうなだれている。
話を早く終わらすために、「○○君(姉の夫)がお前の料理を褒めてたぞ」「料理が美味いと言っていた」とか言ってゴマをする。すると母親はあっさりそれに食いつき、「どんなふうに言ってた!?」などと話が脱線する。
最後はなぜか姉夫婦の悪口を言いまくって盛り上がり、母の気分が収まったところでおひらきとなるのだ。
自分に不満の矛先が向かうと母の好物である他人の悪口を言って話をそらすのが父のいつもの手だった。
父はいつもそんな風にしてやり過ごしていた。
あまりに好き放題言われまくっていて、「たまには反論の一つもすればいいのに」と思ったが、父は何も言わなかった。
言っても勝てる相手じゃないということを嫌というほど分かっていたからかもしれないが。
私が言われていても、我関せずと、横で自分の世界に入り込んでいるか、クククと横で面白そうに笑って見ているだけだった。
母は、私との言い争い中よく父に向かって「お父さん!何とか言ってよ!私が正しいでしょ!?」と言った。
すると父は、「うん、そうだな。そうそう」と空返事をする。
そして母がちょっといなくなった隙に私に、「アイツうるせ~な~。適当に聞いとけ」と言う。
父は役所勤めの公務員だったが、私が小学校を卒業するくらいまでずっと仕事仕事の人だった。
平日はもちろん、土日も出勤か、家にいても机いっぱいに書類を広げ、何かしら仕事をしていた。
家のこと、子育てにはノータッチ。
朝は私が家を出る時間にはまだ寝ていて、夜は私が寝た後に帰ってくるという生活で、小さい頃は平日ほとんど顔を見ないということも多かった。
だから子供の頃は家の中はほぼずーっと、母と私の二人きりという生活だった。
母も私も大概自尊心が低い人間だが、父もまたそうだった。
父はよく母をバカにしていた。「お前は本当にバカだな~」とか。
それに対して自尊心の低い母は、「どうせ私はバカだよ。分かってるよ」と返す。
それは母なりの心の防衛だったのかもしれない。私もそうだけど、怒りを表に出しては負け、余計惨めという思いがあるので、ひどいことを言われてもなんとも感じてない、意に介していないふりをしてしまう。
でもたま~にキレて大喧嘩に発展することもあった。
自尊心低い人あるあるかもしれないけど、父はよく人を貶していた。滅多なことで人を認めない。褒めない。
他にも、人前で母を貶したり、公衆の面前で母をどつくなどもしていた。
母は生まれ育った実家でも、上に出来の良い姉がおり、姉ばかり可愛がられたとか、妹とのことでは「お姉ちゃんなんだから」と妹の肩を持たれ、結婚してからは夫が自尊心の低さゆえ妻をバカにするような人で、子供の私も思うように自分(母自身)を慕わないと感じる、いわば「大事にされている」という実感が乏しい人なのだと思う。(あれ、「父のこと」というタイトルなのに、結局母の話で〆ちゃった)